「毒」に興味があるというと、
アブないやつだと思われてしまいそうで
なかなか話題にしにくいものですが、
私たちの日常には、普通に「毒」は存在しています。
たまには「毒」について考えてみましょう。
1 毒展に行ってみた
去年の秋から今年の春にかけて、開催されていたものです。
特別展「毒」
東京 国立科学博物館
2022.11.1~2023.2.19
大阪 大阪市立自然史博物館
2023.3.18~5.28
⚫︎ 毒の世界へようこそ ⚫︎ 毒の博物館
⚫︎ 毒と進化 ⚫︎ 毒と人間
⚫︎ 毒とはうまく付き合う
なかなか盛況だったようです。
私が行ったのは、3月後半の平日でしたが、
それなりに混んでいて、
ゆっくり進んでいく行列に加わって見学する感じだした。
展示内容は
毒とは何かということから始まり
毒の作用や、日常生活の中にある毒や毒になるもの
毒を持つ身近な生き物や、世界の毒を持つ生き物の紹介
自然の生き物たちがどのように毒と関わっているか
人間と毒の関わり方や、毒にまつわる歴史や文化、
人間が作り出した毒や、毒の被害や
長年の毒の研究から生まれた、有益な毒の使われ方など
文章、写真、模型、標本、本物、動画、音声ガイド
などを駆使して、子供にも大人にもわかりやすく、
簡単すぎず、マニアック過ぎず
(・・・詳しい人には物足りない感じで)
もれなく毒のことを集めたような
ボリュームのある展示でした。
もっと巡回したらいいのになぁと思いました。
お土産コーナーもそれなりに充実していました。
▪️
絶対あると思った!!
美味しそうな「毒まんじゅう」
毒展になかった毒の話がまだあるだろうと思い、
「毒」について調べてみて、
私が興味を持ったところをまとめてみました。
2 毒って何?
「健康を害し、生命を危うくしたり奪ったりするもの」
これが、国語辞典の説明でした。
では、
質問 毒がどうして生命を危うくするのでしょうか。
答え その1
「生命活動に必要な物質」と「毒」がそっくりだから。
そっくりなため間違った反応が起きてしまい、
生命活動がおかしくなる、つまり健康が害されてしまいます。
例えば「一酸化炭素中毒」
「一酸化炭素」は「酸素」とそっくりなので、
血液中のヘモグロビンと結合してしまいます。
そのため、酸素が運ばれなくなり体は酸欠状態になります。
一酸化炭素は酸素の200倍の力で結合するそうです。
答え その2
体の細胞と反応性が高い分子だから
どういうことかというと
例えば
塩酸や硫酸などの強酸は、タンパク質を激しく変性させます。
細胞が破壊され、爛れたり火傷したようになります。
答え その3
毒だなんて誰も思わないものでも過剰摂取してしまったから
例えば「水中毒」です。
水を短時間に大量に飲むと、腎臓が水分を処理しきれなくなり
血液中の水分量が増えて「低ナトリウム血症」を起こします。
頭痛、嘔吐、呼吸困難などの症状が現れます。
水の致死量は、成人男性で10~20Lと言われていますが、
5~8Lでの死亡例もあります。
水に致死量があるのはちょっと驚きでした。
「熱中症予防に水分補給しよう」とよく言われますが、
短時間にがぶ飲みするのではなく、
少量ずつまめに、ミネラル分と一緒に水分を補給しましょう。
3 毒はどのように
体に入ってくるのか
・口からの場合
食べ物や飲み物と共に、あるいは食べられるものと
間違えて口にしてしまいます。いわゆる食中毒です。
・肺からの場合
火山からの有毒ガスや
不適切な暖房で一酸化炭素中毒などがあれば、
呼吸することで毒物が体に入ってきます。
・毒を持つ生物から攻撃を受けた時
いきなり噛みつかれたり刺されたりして
毒が体内に入ることがあります。
血流にのって全身に毒が運ばれて、
重篤な症状を引き起こすこともあります。
・皮膚からの場合
皮膚に触れることで、皮膚が爛れるような毒があります。
他に、皮膚に染み込んで毛細血管から
全身へ運ばれていくという毒があります。
「経皮毒」と呼ばれているものです。
脂溶性物質(油)は吸収されやすくなります。
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余談ですが・・・
「経皮毒」を検索してら、「化学物質大嫌い」な人たちからの情報がたくさんありました。
歯医者さんからの情報が多いのが特徴的でした。
「日常に溢れている、化粧品や洗剤や入浴剤などに含まれる化学物質が皮膚から
吸収され時間をかけていた内に蓄積して、アレルギーや皮膚疾患やそのほかの健康被害を起こす」
みたいな話です。
・吸収されたものの、90%が体内に残るとか
・羊水からシャンプーの匂いがする事例があったとか
恐ろし過ぎます。
ただ、これらの話は発信している人の実体験というより又聞きの話ばかりだなという印象です。
それに反論する意見もたくさんありました。
「そんなに危ないなら、規制されてないのはおかしい」といった屁理屈っぽいものもありますが、
おそらく、反論意見の方が信用できそうです。
反論の一例
「経皮毒を検証│特に女性に知ってほしい経皮毒の真実」
https://earthcare.co.jp/blog/whether-to-absorb-harmful-substances-from-the-skin
暇な時にでも読んでみてください。
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4 毒を考える
⚪︎毒の危険性を考える
危険性=毒性 × 摂取量 × 時間
この式を見ると、毒の危険性はどくの強さだけで
決まらないことがよくわかります。
毒の摂取量は次のように分類されています。
・無効量 薬物を摂取しても、何の作用の現れない摂取量
・薬用量 一般的に「薬」といわれる薬物は、この薬効作用が現れる
摂取量になるようにコントロールされている
・中毒量 何らかの中毒症状を示す量
・致死量 死に至らせる量
上の計算式とこの図を見ると、
猛毒でもごく少量なら軽症あるいは無症状で済むことがわかります。
逆に毒とは思われていないものでも、大量に摂取すれば
健康を害してしまうこともあります。
その中間、程よい量を摂取すれば毒も「薬」と呼ばれ、
役に立つものになります。
このような、毒について研究しているのを科学分野を
「毒性学」と言います。
⚪︎毒の危険性を計る その1
「急性毒」について
薬物の作用が現れる摂取量を3つに分けています。
「ED(effective dose:有効量)」
「TD(toxic dose:中毒量)」
「LD(lethal dose:致死量)」
「LD50」は「Lethal Dose 50%」の略で
日本語では「半数致死量」になります。
この量の薬物を投与すると、
半数の動物が毒作用で死んでしまうという意味です。
LD50の値が小さいほど毒性が強ということになります。
LD50は、毒物の急性毒性を評価するのによく用いられます。
例えば、「LD50=10 mg/kg(ヒト/経口)」という毒物を、
体重60 kgの人が600 mg(10 mg/kg×60 kg)飲んでしまうと、
摂取した人の10人に5人は、死んでしまうということになります。
LD50は毒についての本などに、毒の強さの表などでも使われます。
この表で見ると「LD50=10 mg/kg(ヒト/経口)」は青酸カリと
同じくらいの強さになります。
ただし、これは目安の量なので確実に同じ結果が出るものではないようです。
⚪︎毒の危険性を計る その2
毒の話をするなら、ぜひ紹介したい指数がもう1つあります。
シュミット指数
昆虫学者のジャスティン・シュミットが発表したもので、
2015年にイグノーベル賞を受賞しています。
自ら蜂や蟻に刺されて、それも体のあちこちを刺されてどの虫で
どこを刺されると痛いか、評価したものです。日本語の本が出ています。
蜂と蟻に刺されてみた―「痛さ」からわかった毒針昆虫のヒミツ
サイズ A5判/ページ数 366p/高さ 20cm
商品コード 9784826902021
NDC分類 486.7
Cコード C0045
主観的な評価なので、堅苦しくなく読んでみるのも面白そうです。
5 毒を分類する
毒の作用は多様で、簡単に分類できません。
なので、分類の仕方はたくさんあります。
[ 個体への毒作用による分類 ]
神経毒
・神経の信号伝達を阻害し、神経や筋肉の麻痺を引き起こす。
呼吸困難や心不全、痙攣などをもたらす
・テトロドトキシン、アコニチン、ボツリヌストキシン、サリン、
覚醒剤、モルヒネ、ニコチンなど
血液毒
・血液の赤血球や血管壁などの形状変化、機能変化を引き起こす。
激痛や吐き気、腫れをもたらす
・一酸化炭素、塩素酸カリウム、酢酸鉛、アニリン、
ニトロベンゼン、マムシやハブの毒など
細胞毒
・細胞膜の破壊やタンパク質合成の阻害、DNAへの障害などを
引き起こす。発ガンや生殖異常、奇形の発生をもたらす
・サリドマイド、ベンゼン、リシン、有機水銀、有機ヒ素、
発ガン性物質、催奇形性物質など
[ 症状が出る時間での分類 ]
急性毒性・・・体内に入るとすぐ影響が出てくる毒性
慢性毒性・・・何年も取り続けると出てくる毒性
[ どのような害が起きるか ]
腐食性・・・・皮膚がただれる
感作成・・・・アレルギーが出る
発がん性・・・ガンになる
催奇形性・・・赤ちゃんに奇形が出る
[ どんなものに害が出るか ]
人健康影響・・人の健康に害を与える
環境影響・・・環境中の動植物に影響が出る
[ 法律上の分類 ]
毒物・・・・・毒性の強いもので、法律や政令で指定されているもの。
医薬品及び医薬外品以外のものをいう。
劇物・・・・・毒物よりやや毒性が弱いもの、法律や政令で指定されているもの。
医薬品及び医薬外品以外のものをいう。
特定毒物・・・特に毒性の強いもので、法律や政令で指定されているもの。
普通物・・・・毒物でも劇物でもない毒性の弱い農薬を便宜的に
普通物相当と呼んでいます。
普通物の農薬でも、体質や健康状態や使い方によって、
中毒を起こすことがあるので、注意事項を守ることが大切です。
[ 毒物か劇物かの判定基準 ]
急性毒性、皮膚に対する腐食性、眼等の粘膜に対する重篤な損傷
など、多くの判定基準があります。
一例として、
毒に関する法律は・・・
昭和二十五年法律第三〇三号
毒物及び劇物取締法
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=81094000&
危険なものをどう管理するのか、緊急時にどう対応すればいいのかなど
細かく決められています。
一例
0
4 前三項の規定は、毒物劇物営業者、特定毒物研究者若しくは特定毒物使用者が死亡し、
又は法人たるこれらの者が合併によつて消滅した場合に、その相続人若しくは相続人に代わ
つて相続財産を管理する者又は合併後存続し、若しくは合併により設立された法人の代表者
について準用する。
(昭三〇法一六二・全改、昭五八法八三・平一一法八七・平一一法一六〇・平二七法五〇
・平三〇法六六・一部改正)
0
文章の中にたくさんの日付があります。
70年以上前にできた古い法律ですが、
その後、追加や改正が繰り返されていることがわかります。
それ以外は私の理解の外側w
6 毒 ちょっとだけなら
使っていいよ
毒を恐れて遠ざけるだけでなく、
毒を知れば、毒を利用することもできます。
被害が出ない量がわかれば、毒が体内に入っても健康が保てます。
そんなわけで
化学物質は、毒も薬も食品添加物も、リスク評価されます。
一例として・・・
無毒性量 NOAEL(No Observed Adverse Effect Level)
動物試験などで求められた
“この量以下ならば病気などの有害な影響が出ない最大量”のことです。
通常、1日当たり、体重1kg当たりの化学物質の量で
表します。(例:mg/kg/ 日)
動物実験から出た数字から、人間に対する量を計算しますが、
体重差をもとに単純な掛け算をするのではなく、
確実に安全な量にするために、種の違いと感受性の個人差を考慮して、
無毒性量のさらに100分の1の量を基本の値とします。
他にも「耐容一日摂取量」「最小毒性量」「無影響濃度」などがあります。
有効な使い方が発見されたあと、
様々な実験を繰り返して安全を確認できて、
初めて化学物質は「毒」ではなく利用可能なものになります。
7 毒 だけど
安全に使ってみる
例 1 ボツリヌス毒素
ボツリヌス菌は自然界に広く生息する菌で、食中毒の原因になります。
缶詰、瓶詰、真空パック食品、レトルト食品などに
潜んでいることがあり、菌が作り出す毒素は致死率20%の恐ろしい毒です。
このダントツ1位の危ない毒が、顔のシワ取りに使われています。
ボツリヌス毒素は神経毒で、神経伝達物質のアセチルコリンの
放出を妨げます。
神経伝達を緩く遮断して、表情筋の動きを抑えることで、
目尻のシワが目立ちにくいということになるようです。
美容だけでなく「筋肉の過度の緊張を緩和」を目的として、
病気の治療にも使われています。
例 2 サリドマイドの再評価
1950年代から1960年代初めに多くの被害者を出した
薬害事件がありました。
鎮静・睡眠薬として販売されていたこのサリドマイドを、
妊娠初期に服用すると、胎児に奇形が起きるというものでした。
サリドマイドが原因で起きる生理現象の1つに
「毛細血管の発生を阻害する」というものがあって発育途上のがん細胞の
毛細血管も発生を阻害することが発見されました。
つまり、がん細胞の増殖を抑えるとができる
「抗がん剤」として有効な薬ということになります。
どれくらい利用されている薬なのかわかりませんが
日本語の解説があるので日本でも使われている薬のようです。
催奇形性以外もあれこれ副作用はあるようで、できるなら飲みたいない薬です^^
処方薬事典 サリドマイド関連薬の解説
https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/article/567244b65595b3bc107966ba.html
8 解毒する
毒にやられあぁ~っとしても、健康を諦めるわけにはいきません。
◯ 自力で解毒
いったん体に入った毒も、弱い毒だったり、少量だったら
肝臓、消化管粘膜、肺、腎臓などで分解され排出されます。
体には毒に対する備えがちゃんとあります。
それでは間に合わないような、強い毒、多量の毒にも
治療方法や解毒薬があります。
◯ 洗い出す
催吐剤、胃洗浄、下剤と吸着剤の使用、腸洗浄、強制利尿、血液浄化法
全ての毒が、体から排出されなくても、症状を緩和できます。
◯ 解毒剤 拮抗剤 血清
一部の毒には、毒の作用を無くしたり弱めたりする薬があります。
血清・・・血液が凝固して上澄みにできる淡黄色の液体成分のことです。
抗毒血清の作用・効果は、「抗原抗体反応」を利用したものです。
ヘビ咬傷の場合は、咬んだヘビと同じ種の「抗毒血清」が必要です。
いずれにしても、早く確実に解毒のためには、
どんな毒を、どれくらいの量を、いつ摂取したのかの情報が必要です。
◯ ポイズンリムーバー
毒虫に刺された時、傷口から毒を吸い出す応急処置の道具です。
いろいろなメーカーから出ていて、2000円くらいのものが
多いようです。
アウトドア用品の店やホームセンターなどで売っています。
まとめ
今回は、毒そのものより、毒物の周辺の話を集めてみました。
夜中なので、
この毒では七転八倒してこんなふうに死ぬのです・・・なんて話より
蜂に刺されまくって研究した人とか、
毒を管理して利用する話の方がいいかなと思いました。
今回、あれこれ調べてみて
毒だからと、恐れるばかりじゃなくて、
使い方を考えて、正しく管理すれば
毒が役に立つものになることがよくわかりました。
毒そのものが気になるときは・・・
自然毒のリスクプロファイル
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/poison/index.html
知識があれば怖くない! 天然毒
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/naturaltoxin.html
食中毒
下の方に「2.食中毒の原因と対応」があります。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/index.html
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